「……ったく……もう少しそれらしいリアクションしろよ」
「アンタが止めるのは分かってるからね、甘っちょろい甘っちょろい」
カズヤの刀は、アリシアの首筋に突きつけられる形となった。その短めの髪の先が、刀と少し触れている。アリシアはちっともピンチと思っていないようだが、カズヤにとって有利な状況には変わりない。
「さぁて、降参してもらおうか? もう十分楽しんだろ?」
カズヤは疲れきった表情で、そして諭すような口調でアリシアに告げる。
「これで勝ったつもり?」
「そうですよ~、アリシアさん強いんですよぉ?」
アリシアはニヤリと笑う。同僚の討伐隊員もそれに同調し、頷いている。
「おい、あれってアリシアじゃねーか? 討伐隊の」
「あぁ、ファンクラブまであるとか無いとか……」
ふとカズヤが視線を討伐隊の方に向けると、また観客が増えていた。アリシアは有名人なのだ。美しいと言って差し支えないであろう容姿に、男勝りな性格があり、確かな実力を持っている彼女は、男性はおろか女性にも多くのファンがいる。
「またギャラリー増えてる……」
アリシアが片手を頭にやって、呆れたような仕草をする。もちろん刀は突きつけられたままだ。それでも全く物怖じしていないのは、「アルテナの大地」で死ぬことは無いからなのか、絶対に斬られない自信があるのか、あるいはカズヤならば斬る事は無いと思っているのか。その真意は測ることは出来ない。
カズヤが気だるそうに言う。
「なぁ、降参しろって……」
アリシアは既に気付いていた。
「ふ……」
カズヤが満身創痍であることに。
「甘いって言ってんのよ」
カズヤが最後に見たアリシアは、勝利を確信した笑みを浮かべていた。そして、後頭部に強い衝撃を受けたカズヤは、そのまま意識を闇に溶かし込んだ。
「……ぁ?」
見慣れた天井。ここはカズヤの自宅であった。何故かコーヒーの芳香が漂ってくる。誰かいるのだろうか。
「(負けたんだっけか……)」
そう思いながら身を起こし、その匂いの先へ視点を凝らす。
「ん~、いい豆置いてあるねぇ……カズヤには勿体無い。この天才詩人の僕が違いの判る男となって……」
「おのれは人様のお家で、何をしていらっしゃりやがるのでしょうか?」
幸いにも刀は手近に在ったのだ。抜き身の真剣を喉元に突きつけられたビレッジマーシュは、コーヒーを飲もうとした格好のままで固まっている。
「言葉遣いが滅茶苦茶ですよ? カズヤさん」
「さっさと答えんか」
刀が更に喉笛に近づく。
「僕も観戦してたんだよ、アルテナ戦」
「で?」
冷たい声が響く。本気で斬られそうだ。
「気絶したお前を運んでくれと、アリシアに頼まれたんだよ」
「なんだ、つまらん」
そう言いながらカズヤは、刀を収め、脱力したようにベッドに腰掛けた。まだまだ疲労が残っている。鉛を体内に入れられたとしたら、こんな感じになるのではないだろうか。
「まだ良くなってないだろ? じっくり休養しな」
ビレッジマーシュは、沸かしてあったコーヒーをカズヤに差し出す。独特の香りが鼻から全身に広がっていく。
「あぁ、そうする。……俺が眠ってる間に飲んだのと、今お前が飲んでるコーヒー代は、しっかり貰うからな」
「抜け目が無いねぇ」
苦笑しながら、ビレッジマーシュはコーヒーをすする。その様子を見て、カズヤが訝しげに訊いた。
「何か、掴んだのか?」
「何のことだ?」
屈託無く答える。全く普通の返答だった。
「嘘のつき方をもうちょい上手くしよーね」
半分呆れながらつぶやくカズヤ。
「何言ってるんだ?」
ビレッジマーシュは、あくまで「普通」に受け答えをしている。カズヤはコーヒーカップを下に置くと、ベッドからすっと立ち上がり、ビレッジマーシュに近づき、襟首を掴むと、
「お前は嘘でもついてなきゃ、そんな普通なリアクションはしねぇンだよォォォ!!」
思いっきり頭を揺さぶった。
「やめろゃめろやめろ、バカになるからゃめろぉぉおぉぉぉおぉおおぉぉえっ……」
「元々バカだから関係ないわ!! えぇい!! 吐け! どんな情報があるんだ!!」
見る間に蒼白になっていく表情に、気付いているのかいないのか、カズヤはひたすらにビレッジマーシュを揺さぶり続ける。
「おえっ……」
「そっちの意味で吐いたら三枚に下ろすからな……ったく……」
その蒼白の口から何かが出てきそうな気配がしたので、流石にカズヤは揺さぶるのを止めて、気だるそうに言った。
あとがき
本当に最悪だ……○| ̄|_
今度はハンパなところで切りましたね(ぉ
次は急展開が!?(ぇー