「さ、手加減はナシよ!」
「なんだってこんな目に……」
ここはアルテナの大地。広大な草原の中、女僧侶と侍が決闘をすべく、対峙している。
女の士気は意気揚々、男は意気消沈と言ったところであろうか。見事な対称を見せている。
「すぐに終わらせてあげる、アンタ程度ならPKを倒すのよりも楽だわ」
「安い挑発だな……」
どうも意気消沈の様子が気に食わないらしい。相手が食って掛かりそうな発言をするも、効果は無い。
「……もう! 行くわよ!」
「宣言つきで飛び掛ら……」
そう言いかけたカズヤの眼前に、痺れをきらしたアリシアが飛び掛ってくる。その手に持つ杖で、横薙ぎに一閃。
「うおっとぉ!」
カズヤは後ろに身を引いて、辛うじてかわす。杖の先端が鼻先を掠める。
「ふん、やるじゃないの」
鼻で笑うように言いながらも、次々と杖で攻撃を仕掛ける。カズヤはその攻撃をすんでの所での回避を続け、刀の鞘で受け止める。
「おいおい! 本気でやるなんて聞いてな……がっ……」
鞘で防御し損ねた一撃が、みぞおちに強烈に叩き込まれた。
「このままだとアンタ、黒星増えちゃうわよぉ? “オーラ”も張らないなんて、いい度胸よね、うふふ」
アリシアはその一撃に満足したかのように悪戯っぽく笑い、カズヤはたまらず後方へ飛び退く。鈍痛がカズヤにのし掛かる。
「っの野郎……」
「失礼ね! 野郎はアンタでしょ!」
アリシアは追撃を加えることもなく、苛立たしげに話す。既に痴話ゲンカだ。
「ほえ面かかしたらぁ!」
「やっと本気? でも……」
全身にオーラを纏いつつあるカズヤを見て、アリシアは不敵に微笑む。
“オーラ”は、それを纏う人間の、物理攻撃に対する耐性を飛躍的に向上させる効果がある。もはや杖で殴打する程度では、カズヤに大きなダメージは与えることは出来ない。
「やっぱり甘いわよね!」
自分の不覚さに、カズヤの顔が歪む。迂闊だった。コイツの攻撃パターンを、どうしてまだ覚えていなかったんだ。
その僧侶は勝ち誇ったような笑みを浮かべて、左手を広げ、彼女の頭上にかざした。そして目を閉じ、何事かを軽やかに詠唱する。それは常人には、少なくともカズヤには聞き取れるものではなかった。すると、その細い五指の先端に、小さな蛍火が灯った。目を薄っすらと開き、勝ち誇ったような笑みが柔らかな微笑みに変わる。
「せいやぁ!!」
裂帛の気合と共に、一気に左手を振り下ろす。指先の蛍火は、その残像が瞬く間に灼熱の帯と化し、眼前のカズヤに襲い掛かる。
“ヘヴンズファイア”……天国の炎と冠されたそれは、魔術師の扱う炎とは全く異質のものであった。
「うぉぉぉぉ!!!」
絶叫と共にカズヤは炎に飲まれる。
「ふっ……まだまだね……」
アリシアは勝利を確信し、先ほどまで炎の宿っていた指先を、軽く吹くそぶりをした。
「アリシアさんはやっぱり強いわぁ……」
「ふふふ、そうでしょ~♪……何観戦してるの!?」
驚いて振り返ると、そこには先ほど街中で出会った同僚の討伐隊員が、にこやかな笑顔をふりまいて佇んでいた。いつから居たのだろう。
「あら、カズヤさんも強いですね?」
「はっ?」
彼女がその笑顔を全く変えずに言うので、アリシア呆けた表情を浮かべる。何のことか理解できない。
「おらぁぁぁ!!」
「嘘……」
アリシアに手落ちがあった。炎に包まれた後のカズヤの様子を見届けることを怠ったのだ。そしてカズヤは、業火に耐え抜き、アリシアに反撃を加えることとなる。
「やってくれたな!!」
「……」
唖然とするアリシアに、カズヤの刀が一気に振り下ろされる。
あとがき
いいところで切りましたね(最低
期待は最悪の形で裏切りますよ(にっこり)