「とりあえず言えることは……」
「やっと喋る気になったか」
少々年をとったように思えるビレッジマーシュが、ぼそり、ぼそりと口を開いた。ちなみに、この間に数多の拷問があったのではあるが。
「イノセント……だっけか……アレは追わないほうがいい」
「……なるほど、そっちの話か。理由は?」
ようやくビレッジマーシュの口を割れたという優越感からか、カズヤはニヤニヤと話を聞いている。
「どうも厄介な連中に繋がってるみたいでな……」
「なーんだそれ……」
そう言ってカズヤがベッドの上で伸びをした瞬間、
「おっじゃましまーす」
場違いな声が、カズヤの家に響きわたる。
端正な顔立ち、そしてそれに不釣合いな、歪みきった笑み。
「に、逃げろ!!」
ほとんど叫ぶようにしてビレッジマーシュが言う。カズヤは呆然としている。
「やっと見つけたよ? ビレッジマーシュくん」
「もう来るなつっただろうがよ……」
どうやら自分だけが蚊帳の外に居るようだ。様子をうかがうことにする。
「で、ビレッジマーシュよ。こいつは何だ? フレンドリーってわけでもなさそうだし」
「その通りだよ、さっさと逃げろ!!」
ビレッジマーシュは、既に自分の武器を構え、臨戦体勢をとっていた。それは相手方も同じだった。カズヤだけが、その流れに取り残される形となった。
「やっぱりお前ら危険だわ。ココで死んでもらうよ?」
「はぁ……?」
やはりカズヤには話が見えてこない。男は嘲るような笑みを浮かべている。それが、カズヤの神経を逆撫でした。
「とりあえず、事情を話してもらおうか?」
「…何、やる気?」
「カズヤッ!!」
言い終わるか終わらないかのうちに、男はカズヤに詰め寄った。ビレッジマーシュが叫んだ。
「……弱いな、お前」
カズヤは鼻で笑って言う。カズヤには確信があった。
「はぁ? 状況わかってんの?」
「わかってるさ」
部屋に乾いた音が響く。カズヤ以外の2人が絶句する。
「なっ……」
「得物も必要ないってな」
普通、侍は刀を主な武器とする。侍にとって刀は無二の武器であるはずだ。今、カズヤはその刀を地面に放った。男が一瞬、ためらうように動きを止める。
「ふざけやがれ!!」
それもつかの間、男の顔は醜くゆがみ、一気にカズヤに詰め寄り、短剣を垂直に振り下ろす。
「ふざけるのは趣味じゃないんだよ」
はじける様な音がすると、短剣を握った右腕が大きく横に開いた。カズヤが思い切り腕をはたいたのだ。直線的な力は、横からの力に弱いものである。
「ば、馬鹿な!」
男は信じられないものを見たというように、これ以上ないほど大きく目を見開く。
すかさずカズヤは構えて、男のみぞおちに一気に拳を突っ込んだ。
「ぐぶぇ……」
肺の空気が全て飛び出し、嗚咽と吐気が一気にこみ上げる。ビレッジマーシュは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
「これが……カズヤの本当の実力……」
自分より強い男を、その男を素手で圧倒している男を、そして、何も出来ない自分を噛み潰すかのように。
「が……はっ……」
前のめりになっている所へ、思い切り顔面に蹴り飛ばす。骨の軋む音と共に、男は後ろへ吹き飛び、出入り口のドアに激突した。ちょうどドアに寄りかかるように、ずるずると崩れ落ちる。端正だった顔は、鼻が曲がり、血がこびりついていて、原型を留めていない。
「さて……と?」
カズヤは落とした刀を拾い上げ、鈍く光る刀身を抜き、男の鼻先にまで近づけた。
「まだ気絶してないだろ、さぁ、質問の時間だ。……お前は何者だ?」
「きさ……ま……」
男の目つきはまだ死んでいない。声は出ないが、その闘争心はビレッジマーシュにも、当然カズヤにも伝わる。
「さぁ、答えろ!」
「誰が……言うか……」
刀の切っ先が、男の頬に当たる。刀の切れ味は見事なもので、触れただけで薄く血が流れ出た。
「カ、カズヤ、こいつは単独で動いているわけじゃない!」
ようやく我を取り戻したビレッジマーシュが、必死の形相でカズヤに向かって叫んだ。
「そういや、お前は知ってるらしいな、こいつの事。何なんだ?」
カズヤがビレッジマーシュの方に顔を向けて質問する。
「バカ、ちゃんと見張ってろ!! コイツら、『こっち側』じゃな……」
ビレッジマーシュの言葉は、轟音にかき消された。
あとがき
7話のコピーしたまんまでした……○| ̄|_
ぁ、次の話はこれの続きではありません(最悪な予告)