「みょ~なことになってるねぇ?」
カズヤとアリシアの居た通りに程近い路地裏に、1人の男が居た。家の外壁にもたれかかっているこの男は、先刻、酒場でアリシアの凶行に巻き込まれた男であった。がっちりとした体躯の男である。
「……別に様子見程度で良いだろう、こいつらは」
彼の独り言に答えるように、別の男が路地の奥から姿を現した。よく見ると、意外と整った顔立ちをしている。
「一人は名うての討伐隊だ、もしもの事があるかもよ?」
「我々の邪魔にならなければ、利用するまでだ」
寄りかかっている男が不敵に笑って答える。
「邪魔になるなら、消そうっての? ぁーやだやだ、物騒だね」
後に現れた男が肩をすくめる。
「それが『我々』の責務だ」
凍り付くような、冷たい口調だった。
「どっちにしろ、ヤツラは警戒して見ておいた方が良いみたいだね」
「どこから奴に繋がるのかが分からない以上、可能性は全て調べておくべきだ」
この2人の男たちは妙に不釣合いであった。1人は優男でノリの軽い、もう1人は体格がよく、非常に冷徹な人間のように見える。この似ていない2人に対する共通点と言えば、酒場での様子とは全く違う、ということであろうか。
「その為に、情報撒いてるんだからねぇ……本当に捕まるのか? アレは」
「捕まるのかではない、捕まえるのだ」
男は、全く怖じる様子も無く答えた。
「まったく、お前は根っから軍人だな……」
半分呆れたように、嘆息しながら答える。
「じゃあさ」
「?」
唐突に軽そうな男が口を開いた。もう1人の男が、何が言いたいんだ、というように男を見返す。
「この話を立ち聞きしてるヤツはどーしよ?」
「その処理も我々の責務の1つだ」
言い終わるか言い終わらないうちに、2人はその場から一瞬で姿を消した。微かな土煙も残さずに。
「ちっ……」
路地の隅で男たちの様子を窺っていたビレッジマーシュが、その動きに反応した時には、既に2人の男に前後を挟まれていた。風を切る音しか聞こえてこなかった。
「さっきはどうも、ぶつかってくれて。ずっとつけてたの?」
ビレッジマーシュの目の前に、優男が対峙する。
「……お前らは、何者だ?」
呻くように、ビレッジマーシュが訊いた。相手の正体が掴めないうえ、圧倒的に不利なこの状況。相手の隙を窺うしかない。
「答える必要は皆無だ」
冷徹な声が後ろから響く。体格の良い男のものだ。
「ふぅん、おちゃらけ吟遊詩人の裏の顔は、闇の情報屋ってヤツ?」
女たらしのような整った顔立ちで、ニタニタと嫌らしい笑いを浮かべている男の手には短剣が握られていた。
「どっちが表か裏かなんて、見る側の勝手な決めつけさ」
ビレッジマーシュは、特に悪びれた様子も無く答えた。
「生かして帰す訳には行かない」
体格の良い男は、格闘を主な攻撃方法とするらしい。拳法の構えを見せた。
「どうやって殺す気? PKになっちゃうよ?」
ビレッジマーシュは、相手に恐れを抱いている様子を見せない。しかし、彼に余裕があるわけではなかった。
「ちょちょいとお前を瀕死にして、アイテム奪って、洞窟の奥にでも放り込めば、ドラゴンの餌になるだろ? 少しはその足りない脳味噌使えよ?」
「……なるほど」
相変わらずニタニタと笑っている男に対して、ビレッジマーシュの額からは、一筋の汗が落ちる。気温による汗ではない。この汗が、目の前に対峙している二人の実力を物語っていた。
「何、もう言うことない? つーか、そんな武器で戦えんの?」
「…………」
せせら笑う男をよそに、ビレッジマーシュも静かに武器を構える。彼の武器は楽器――竪琴のような物である。
「情報屋にも、情報屋としての戦い方があるんだよ」
「しまっ……」
言うが早いか、ビレッジマーシュの背後に居た体格の良い男が、一瞬でその場から姿を消した。否、ビレッジマーシュが、異空間へ通じる穴をを作り出し、そこへ男を落とし込んだのだ。男は、どこか別の場所へ飛ばされることとなる。
「“次元の門”……なるほど、『負けない戦い方』……これが情報屋流か!!」
「倒すだけが、戦闘じゃないってことさ!」
その隙を見て飛び掛ってきた男の攻撃を、ギリギリのところで捌く。戦闘能力は、単独でも男の方が上である事は明らかであった。
「次はお前だ!!」
相手の猛攻の間隙をぬって、もう1人の男も消し去ろうとする。
「そっちが情報屋流なら、こっちは暗殺のプロの戦い方を見せてあげよっか?」
「!……」
ビレッジマーシュの目の前から男が消えた。ビレッジマーシュの作り出した虚空への穴だけが残る。“スライトステップ”……一瞬でビレッジマーシュの左側に移動したのだ。
「バイバイ、情報屋」
一撃で確実に気絶させられるポイント……“致命点”は、既に分かっている。一瞬でそこを攻撃するはずであった。
「―♪~……♪―♪……」
突然ビレッジマーシュが、その手に持っている楽器で演奏を始めた。美しい音色が響き渡る。
「……なっ!?」
刃先が後数センチで喉元に到達するというところで、男の体が全く動かなくなってしまった。
「♪~♪ーー♪ー……」
ビレッジマーシュは、その演奏に合わせて鼻歌まで歌い始めた。“鎮魂歌”……相手に、様々な不調をもたらす、ビレッジマーシュの技の1つである。
「麻痺……御託ほざく前にやっておくべきだった……」
男は身体を動かそうと苦々しい顔を浮かべながら、己の不覚に毒づいていた。ビレッジマーシュは、その男に1歩近づいて、
「もう来ないでくれよ?」
異次元に通じる穴を作り出し、その中へ男は吸い込まれた。男はどこか別の場所で、再びこちらの世界へ出現することとなる。
「危なかった……アレが成功してなかったら……」
言葉の続きを飲み込んで、改めて恐怖する。気持ち悪い冷や汗が、背中にベタベタに張り付いているようだ。
「まさかコレで済むわけは無いよな……こうなったら、徹底的に洗ってみるか……」
彼自身にも、これからその組織からの追っ手が次々とやってくるであろうことは、すぐに分かった。しかし、彼に逃げるつもりは無かった。情報屋として、戦うことを決意したのだ。
「けど、まぁ。どうやってあいつ等に流すかねぇ?」
しかし、次の瞬間、クックと笑いながらそこに居たのは、いつもの、カズヤやアリシアに殴り飛ばされているような、吟遊詩人としての彼であった。
あとがき
うーん、急展開ですか?(ぇ
相変わらず文章下手くそですね、僕わ(今更