「さて……と」
そう呟きながら、森の中を歩いている男の名はカズヤ。「職業」は侍で、堅物のような印象を受けるが……。
「可愛い子ちゃんは何処かな?」
軽い男である。
そんな彼の趣味は、PK――プレイヤーキラーと呼ばれる、他のプレイヤーを倒す――狩る人間と「遊ぶ」事である。
「ご主人様! PKのラディ♂が入ってきたでスラ!」
「ちっ、野郎か……。まぁ、いい。遊んでやるかぁ」
そのラディという名のPKは、獲物を探しつつ、そして当然周囲の警戒も怠らずに、森の中をうろついていた。
カズヤは、油断しきった様子で、ラディの前を横切るようにして、フラフラと現れた。
「獲物みっけ♪」
「…………」
ラディは、嬉々とした様子で、その身の丈ほどもある巨大な剣を構えた。
カズヤは、その声でようやく彼の存在に気づいたように、黙りこくり、無表情でラディを振り返る。
「たかがクレイモアで……」
「なっ……!?」
ラディはたじろいだ。自分が鍛え上げた自慢の武器、その名を言い当てられたのだ。
言い当てたことは、相手の態度で一目瞭然である。カズヤ唇の端をつり上げるようにして笑う。
「俺を狩れるのかなぁ?」
「ナメとんのか? 討伐隊でも無いのによぉ!」
ラディは、怒りを露わに、カズヤを両断せんと切りかかる。
「喰らうわけには、いかないねぇ」
「さ……鞘で、だと!?」
カズヤは、薄笑いを浮かべながら、その大剣を刀の鞘ごと受け止めた。
「なるほど……“オーラ”か……」
「御名答♪」
自分の技を見抜かれても、カズヤのその余裕は消えない。逆に嬉しそうである。スリルを愉しむかのように。
“オーラ”……聖なるオーラを身に纏い、防御力を強化する特殊技である。カズヤは、鞘にオーラを集め、攻撃を防いだ。
「だが、そんなものはあっさり破れるぞ?」
ラディは冷静さを取り戻しつつあった。攻撃力を高めるべく、その巨剣を大きく振りかぶり、攻撃に移ろうとしている。
「お前にゃ出来ない」
カズヤは、ヘラヘラと笑いながら答える。
再びラディの額に青筋が立つ。
「ふざけ……!!」
「ほぉら、出来ない出来ない」
ラディが剣を振り下ろした時、その倒すべき相手は既にその場には居なかった。
「…………っ」
言葉さえ発することも出来ずに、ラディはその場に崩れ落ちた。
そしてその背後に、刀を収めるカズヤの姿があった。
「…………これでよし、と」
そして、カズヤは、ぐったりとしたままのラディを、ポニーの上に乗せた。
泡を吹いて気絶はしているが、彼はちゃんと生きていた。
「んじゃ、頼んだぞ。コイツを街まで届けるんだ」
ポニーは、うなずくような仕草を見せると、颯爽と町のほうへ駆けて行った。
「さて、俺らも帰るとするか」
「ご主人様……」
「どうした?」
カズヤのことをご主人様、というのは、カズヤのカンパニーのスライムである。先ほど、PKの襲来を告げたのも彼(?)である。
「どうしてご主人様は、討伐隊に志願しないのですか? ご主人様はとても強い。ほとんどのPKを圧倒しているのに……」
「どうも討伐隊は好かねぇ」
「きっと女性にもモテモテですのに……」
スライムが嘆息混じりに言う。
「それは非常に美味しいけど、却下だ」
「うぐぅ……」
「叩き切るぞ?」
一瞬で抜いた真剣を、スライムに突きつける。
「ごめんなさい……」
「萌えがないよねー、萌えがぁ!!」
「ひぃぃぃぃ!!」
訳のわからないことを言いながら、不気味な笑顔を浮かべ、スライムの体を、真剣の「みね」でポヨポヨと叩いている。
もしかしたらカズヤには少々変わった性癖があるのかもしれない。
「何か言ったかなぁ?」
いえ、何も。
あとがき
うわぁ、今更って感じですね……。
微妙に改訂されてます。ここらへんは全然微妙です(謎